先人たちが培った
「おにぎり」という芸術
日本人にとってコメは最高の食材です。コメを炊くことは先人たちの知恵。和食は味が淡いコメを頂点として組み立てを考えますが、コメが主役の「おにぎり」は和食の原点。とりわけ塩にぎりは、コメのうま味を一番引き立たせる究極の料理です。さらに梅干しの酸味、海苔や昆布の旨味に食物繊維も加わることで「おにぎり」はバランス食として完成します。簡便かつ、シンプルで美しい。「おにぎり」は先人たちが培った芸術です。
目に見えない
“愛情”が込められた母の味
「おにぎり」は、先人の理にかなった知恵が詰まっているだけではなく、ごはんにおかずを少しずつつまみながら、口の中でそしゃくしながら仕上げていく「ロ中調味」という、和食の考え方そのものとも言えます。また、炊きたてはもとより、冷めたごはんもおいしくいただける「おにぎり」は、優れた携帯食として日本の食文化の発展に大きく寄与しました。「おにぎり」で思い出すのは、なんといっても母親の味。子どもの頃、母親がおやつにと握ってくれた、戸棚に置かれた大きな「おにぎり」が忘れられません。「おにぎり」には、目には見えない愛情が込もっています。
人生で最もおいしかった
「どら焼き状のおにぎり」
これまで私が食べた中で最高においしいと感じた「おにぎり」は、小学5年生の女の子が作ってくれた「どら焼き状のおにぎり」です。これは茶碗の縁を器用に使い、手で握らずにまとめられたものでした。「おにぎり」は、握ろうと思ってはいけません。余計な力が入り、せっかくの米粒がつぶれてしまいます。握るというより、まとめるという意識で形を整え、米粒と米粒がくっつき合わせられる程度が良いのです。
2000粒のプラチナのような白いコメでできた「おにぎり」には、日本人の心そのものが詰まっています。みんなが食べて笑顔になれる「おにぎり」を、応援していきましょう。