私のおにぎり物語

少年時代の
小昼飯(こじゅうはん)の思い出

発酵学者・食文化論者 小泉 武夫(こいずみ たけお)

とても大きかった
小昼飯のおにぎり

子どもの頃、私の母は時々、小昼飯(こじゅうはん)としておにぎりを出してくれました。小昼飯とは昼飯と夕飯の間に食べる間食、おやつのこと。学校から帰ってきて、おにぎりが出されると嬉しかったものです。健康で丈夫な子どもに育って欲しいという親の愛情もあったのか、おにぎりはとても大きかった! 当時、子どもだったから大きく感じたのかもしれませんが。

私にとって一番のおにぎりは、みそにぎり、塩にぎりといったシンプルなおにぎり。しょうゆをつけて焼いた焼きおにぎりも好きです。白いごはんを握って、みそまたは塩をまぶしただけのおにぎりこそ最高。なぜなら、みそも塩もごはんの味を消さず、お米のあま味とおいしさを生かす素材だから。特にみそは大豆の発酵食品。牛肉と同じタンパク質のため、栄養バランスもよくなります。我が厨房「食魔亭」でも、みそにぎりを握ってふるまっています。

幸運を運ぶ“太陽”の形として

おにぎりはおむすびとも言い、古い記録では「産巣日(むすび)」と書き、すべてのものは太陽から産まれ繁栄するという意味です。おにぎりは本来、丸い形。鏡餅、神棚の丸い鏡、節分の豆などと同じく太陽を表し、すべての生命が生まれるという象徴です。日本には丸いものには霊があるという太陽信仰があり、私はおにぎりを食べると胃袋に太陽が入ってきて、すばらしい幸運がつく感じがします。

日本人のぬくもりを伝える存在

青森では福祉活動家の佐藤 初女(さとうはつめ)さんが、悩める人の話を聴く癒しの場「森のイスキア」を主宰されておりました。相手の話を聴き、おにぎりを通じて心を癒した方です。機械で作るコンビニのおにぎりと違って、人の心が手を通して伝わるのか、手作りのおにぎりを食べると心が安らいだり、心の病が治ったりしたそうです。おにぎりは、そういう力を持っています。

おにぎりを一言で言うと「眩しい 眩しい 日本人のぬくもり」。おにぎりとは輝いている憧れの存在、嬉しい存在、日本人の心が伝わってくる存在そのものです。

発酵学者・食文化論者
小泉 武夫(こいずみ たけお)
プロフィール
福島県の酒造家に生まれる。東京農業大学応用生物科学部醸造科学科教授や、財団法人日本発酵機構余呉研究所所長、鹿児島大学客員教授、別府大学客員教授などを経験。現在は東京農業大学名誉教授のほか、全国の大学で客員教授を務める。専攻は醸造学・発酵学・食文化論。国や各地の自治体など、行政機関での食に関するアドバイザーを多数兼任。次の世代に発酵文化を伝えていく、発酵学者の育成にも力を注いでいる。著書に『小泉武夫の美味いもの歳時記』(日本ビジネス人文庫|2008年12月)など。

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